『カンブリア宮殿』 テレ東(月)22:00~
公式HP:http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/
出演者:村上龍、小池栄子、熊井英水
◆カンブリアFile No.134 近畿大学教授 熊井英水
●『苦節32年!高級マグロを作れ』
本州最南端、和歌山県串本町。
その沖合いに直径30mの巨大な生け簀がある。中ではクロマグロが泳いでいる。
クロマグロは5種類いるマグロの中で最も大きく値段も高い。
しかもここにいるのは世界で初めて人間の手で作り上げた完全養殖のクロマグロ。
これを育て上げたのが熊井だ。
通常の養殖は天然の稚魚を捕らえてそれを大きく育てて出荷している。
一方、「完全養殖」は天然の稚魚を育てて卵を産ませ、その卵を孵化させ育てたものを出荷する。
自然界にいる魚には全く手をつけない養殖だ。
近畿大学は2002年、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した。
成功しているのは世界でここだけ。
近畿大学は1925年に創立された。
中でも評価が高いのが水産学科だ。
その核となるのが水産研究所。戦後まもなく設立された。
やがて人口が増え、陸の食料だけでは足りなくなる。
畑のように海を耕し、人間の手で海産物を作らなくてはならない。
目指すは獲る漁業から作る漁業への産業革命。
1965年、世界で初めてヒラメの完全養殖に成功。
それ以後、ハマチ、カンパチ、シマアジなど、全て近大が世界初の完全養殖を成し遂げてきた。
1970年いよいよマグロの養殖に乗り出す。
その生態すら分からない中、手探りの出発だった。
中でも1982年、最大のピンチがやって来た。
この年、熊井は途方に暮れた。マグロが全く産卵しないのだ。
考えられる手は全て打ったがマグロは卵を産んでくれない。
ライフルでホルモン剤を撃ったことさえあった。
そして12年後、熊井の目が輝いた。生け簀の中でオスがメスを追い始めたのだ。
やがて待ちに待った産卵が始まった。
ようやく卵を採集してもそこからまだ苦難の道が続く。
稚魚の共食い。生き残った稚魚も水槽の壁に衝突して次々と死んでいく。
共食いを防ぐため熊井たちは稚魚を大きさごとに選り分けた。
また、電気を消すと驚いて壁に衝突する事を突き止め、年中電気をつけて育て上げた。
さらに7年かけてマグロ専用のエサも開発した。
粉末にしたアジやサバに消化酵素を配合してあり、マグロを効率よく太らせることが出来る。
そして、研究開始から32年(2002年7月)、遂に世界初のクロマグロ完全養殖を達成したのだ。
●『大企業も狙う!マグロ養殖 最前線』
鹿児島から南に380キロの奄美大島。
この奄美にも近畿大学の養殖場がある。
設立されたのはちょうど10年前。
和歌山からマグロの稚魚を持ってきてここで大きく育てている。
熊井が養殖の場に選んだこの大島海峡は水深が80メートルと深く、大きな生け簀が設置できる。
また、潮の流れが速いため水がいつも綺麗だ。
さらに入り組んだ海岸線が、台風などから生け簀を守る自然の防波堤になっている。
和歌山なら3年かかる大きさになるまでここ奄美では2年で育つ。
その理由は年中温かい海水温。冬でも20度を下回ることはない。
この好条件を活かし、熊井たちは奄美で完全養殖マグロの大量生産を目指している。
実は奄美の海では今、マグロ養殖の一大ブームが起きている。
マルハニチロ、ニッスイ、近大、水産総合研究所が5ヶ所で事業を展開し、しのぎを削っている。
なぜこんなことになっているのか。
去年、モロッコで開かれた国際会議で大西洋のクロマグロの漁獲量を35%削減することが決まった。
さらに世界中の海で漁獲を規制する動きが強まっている。
世界のクロマグロの実に9割を消費すると言われる日本。
”このままではマグロが食べられなくなる”
大手企業はこれをビジネスチャンスと捉え、続々とクロマグロの養殖に乗り出したのだ。
ニッスイやマルハニチロは奄美の養殖業者を買収し大規模なマグロ養殖を展開。
去年、奄美で養殖されたマグロは国内全体の約6割にあたる5600トン。
これが今年は一気に8000トンまで増える見込みだ。
これら各社はヨコワと呼ばれる天然の幼魚を捕獲し育てている。
ところが資源保護の面からヨコワの捕獲にも規制の動きが…。養殖の将来も危うい。
こうした事態に近畿大学はいち早く動き出した。
和歌山県串本町の研究所にある巨大な生け簀。そこで泳いでいるのは完全養殖のヨコワだ。
近大では去年から国内の養殖業者に完全養殖のヨコワを販売するビジネスに乗り出した。
現在ここにいるヨコワは約2万匹。
将来は国内での養殖に必要とされる30万匹を全て完全養殖ものでまかなうのが目標だ。
将来もマグロを食べられるか否か。それが熊井たちの技術にかかっている。
●『日本の漁業を変えろ 近大 養殖ビジネス』
和歌山県白浜町。
ここにアーマリン近大という会社がある。
アーマリン近大は2003年、熊井たちが作った大学初のベンチャー企業だ。
現在の年商約28億円。
近畿大学の研究所で育てた16種類の魚を販売、養殖用の稚魚も販売している。
中でもマダイは国内で養殖している3分の1が近大産の稚魚を育てたものだという。
ここ白浜で、特に養殖に力を入れている高級魚があるという。
それは幻の魚、クエ。九州ではアラと呼ばれるマグロよりも高い高級魚だ。
その近大のクエは今や街の名物になっているという。
近大の養殖事業はあの奄美大島も変えていた。
近大の奄美実験場で働くのは20人。うち15人が地元の人。女性もパートで網の補修をする。
養殖場が出来たことで島を離れる若者が減ってきているという。
他の業者も合わせると約300人の地元の人が養殖で生活の糧を得ている。
衰退する一方の日本の漁業。養殖が生む雇用と経済効果が生き残りのカギを握るかもしれない。
『カンブリア宮殿』 2月2日
