『カンブリア宮殿』 テレ東(月)22:00~
公式HP:http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/
出演者:村上龍、小池栄子、林原健
◆カンブリアFile No.158 林原グループ社長 林原健
●『社長歴48年!日本一ユニークな会社』
林原は1883年、岡山市で創業。
事業のスタートはでん粉から作る水あめの生産だった。
第二次世界大戦終結後、日本はまだ貧しく、砂糖が輸入できず代わりに水あめが重宝されていた。
1950年、林原は水あめの生産量で日本一になった。
その時の社長が3代目・林原一郎。健の父である。
経営手腕に長けた父・一郎は事業を次々と拡大していく。
ところがそんな矢先、1961年、一郎はガンで急逝。
53歳の若さだった。
その後を継いだのが慶応大学の学生だった長男の林原健。
まだ19歳だった。
19歳の慶應ボーイが突然社長に。
だがそんな彼を待っていたのは大混乱した会社であった。
会社では父の死後、親戚の間で遺産相続を巡り、お家騒動が勃発。
さらに2年後の1963年、砂糖の原料の輸入が自由化され、安い砂糖が世の中に出回るようになる。
事業の柱だった水あめの需要は急速に減少。
会社の累積赤字は40億円にまで膨れ上がっていた。
そこで若き4代目社長は思い切った策に出た。
”水あめをやめ、でん粉化学の研究に特化する”
健は家の財産を切り崩し、ありったけの資金を研究開発へとつぎ込んだ。
この狙いは見事的中する。
でん粉から作った点滴液の原材料・マルトースの開発に成功。
従来のブドウ糖に比べ同じ量で2倍の栄養を補給できるという画期的な製品が大ヒットした。
さらに薬のカプセルなどに使われるでん粉から作ったプルランやガン治療薬・インターフェロンなど次々と新たな特許技術を開発。
林原は今では5000以上の特許を持つバイオ企業へと生まれ変わった。
5つ年下の弟・靖も大学卒業と同時に林原へ入社。
専務として主に営業面で兄を支えている。
兄・健の社長就任から48年、林原の売上高は今や720億円。
当時の7倍以上の規模に会社を成長させてみせた。
●『日本一ユニークな会社 ”夢の物質”ができた瞬間』
全国チェーンのスーパーマーケット。
ここに林原が研究開発した革命的な商品があるという。
向かったのはお菓子の売場。
お菓子の原材料に使われているトレハロース、これを林原が開発した。
チョコレートからスナックまで様々なお菓子にトレハロースが入っている。
お菓子だけではない冷凍食品にも使われていた。
謎の物質・トレハロースは砂糖の仲間。
しかし通常の甘味料とは異なり様々な特性を持つ。
【トレハロースの特性(1) 鮮度を保つ】
例えば一度冷凍したプリンを解凍してその違いを比べて見ると…
トレハロースが入っていないプリンは冷凍の影響で滑らかさが失われている。
一方、トレハロースを入れたものは作りたての状態に近い新鮮さが保たれている。
比べてみると違いは歴然。
【トレハロースの特性(2) 素材の旨味を引き出す】
トレハロースに注目しているのは食品メーカーだけではない。
奈良市にあるフランス菓子専門店ガトー・ド・ボワ。
有名パティシエが作る本格スイーツが並ぶ人気のお店。
この店ではほとんどのスイーツにトレハロースを使っていた。
そのおかげで理想の味が実現できるのだという。
実はトレハロースの甘味は砂糖の半分しかない。
甘くないため素材の邪魔をすることなく理想的なスイーツの質感も実現できる。
【トレハロースの特性(3) 熱を逃がす】
紳士服専門店「はるやま」では夏用のクールビズを前面に押し出している。
その一押し商品がトレハロースをつかったシャツ。
繊維にトレハロースを加えることで通常より着心地が涼しくなるという。
本当にトレハロースを入れると涼しいシャツになるのか。
繊維メーカー(シキボウ江南 愛知・江南市)で実験を行った。
ぬるま湯の入ったビーカーにトレハロースが入った生地とそうでない生地を貼り、温度の変化を特殊なカメラで測定する。
1分でトレハロースを入れた生地は2℃も温度が下がった。
そもそもトレハロースは天然にも存在している糖。
昆虫の体内やキノコ類にも含まれている。
だが専門家の間では長年に渡ってこのトレハロースを大量生産することは不可能だと思われていた。
しかしある偶然から林原はトレハロースの大量生産に成功する。
きかっけは研究員・丸田和彦の若き日の研究だった。
この時の丸田の研究テーマはでん粉から何か新たな糖を作り出すこと。
微生物が作る酵素はでん粉を分解し糖を作り出す。
丸田は連日そんな酵素を探していた。
2ヶ月後、でん粉にある酵素を加えると他と違う反応を見せていた。
調べるとなんとトレハロースが出来ていた。
原材料はトウモロコシやジャガイモから取れるでん粉。
これに発見した酵素を反応させると大量にトレハロースを生産することが出来る。
それまで1キロ3万円以上していたトレハロース。
林原が大量生産に成功したことでその価格はなんと100分の1となった。
これによりトレハロースは食品をはじめ様々な商品に使われるようになり、市場は今や100億円。
そのほとんどを林原が独占している。
●『世界が仰天!林原の研究とは?』
岡山市、林原生物化学研究所。
この研究所には140人の研究員が在籍。
その35%が博士号を持つという精鋭部隊だ。
こちらの医薬研究チームは、かなり変わった研究をしているという。
それはなんとハムスターの冬眠研究。
将来、人の病を解明するための手がかりになるのだという。
社長の鶴の一声で始まったこの研究。
研究を続けて15年、いまだ儲けは無い。
岡山・玉野市。
さらにこちらの施設では風変わりな研究を行っているという。
厳重なセキュリティを通り抜け特別に現場に案内してもらった。
するとそこにはなんとチンパンジーが。
ここでは類人猿の研究をしていた。
この日行われていたのはモニターに出された数字の順番をチンパンジーが記憶できるかという実験。
チンパンジーは見事に順番を記憶。
研究を始めて今年で10年目。
しかしここでも、ビジネスには直接関係ない研究なのでお金にはならないという。
さらに全く民間とは思えないような研究があった。
林原は16年前から毎年モンゴルへ調査団を派遣。
化石を発掘し恐竜がどんな環境で生きていたのかその生態を研究している。
●『儲からない研究を一体なぜ続けているのか?』
林原「私の研究のやり方は最初から『これを作れ』ということはなるべくしないんです。
一応テーマは与えますけど テーマができるまでに周辺にいっぱい”副産物”ができるわけです。
それを見逃さないようにすることを特に注意してやっています。
100あれば100の企業の生き方があり、みんな違っていて良いと思うんです。
上場している企業は株主がものすごくたくさんいるわけです。
株主を全部納得させてお金をかけることができるものは、市場調査をして『売れる』と確信したものでないと研究できないんですよ。
そうなってくると非常に限られてしまいます。
そういう意味からいうと私のところなんかはそこに引っかからない。
10年、20年かけないとできない研究、そういうものをあえて選んで稼業としてやる、これが非上場 同族企業にはできるわけです。
社長も変わらないし。
そして、できた時のメリットも非常に大きいわけですね。どこもやっていませんから。
最初にやろうとしたこと以外の副産物も途中でいっぱい出てきて、それが全部自分のものになるわけですね。
だからそういう意味ではリスクというよりもメリットの方がデカイわけなんです。
だけど、どの業種でもこれが当てはまるかというとそれは違います。」
◇林原商事⇒http://www.hayashibarashoji.jp/